実は治療が必要なのに…
推定500万人が未受診・未診断?
時に命に関わる恐ろしい病気、
「COPD」とは

「COPD(シーオーピーディー)」という名前の病気について、
聞いたことがあるでしょうか。

COPDは主にタバコによって引き起こされる、時には命に係わる恐ろしい病気です。
しかし、タバコによる健康への悪影響が広く知られる一方で、
このCOPDという病気ついては、「聞いたことがない」という方も多く、
本当は治療が必要なのに検査を受けていない方も大勢いると言われています。

今回は、呼吸器内科の医師として、COPDとはどのような病気なのか、
主な症状や病院で調べた方が良いケースなどについて解説したいと思います。

そもそもCOPDとはどのような病気なのか、概要やよくある症状について教えてください。

COPDは、主にタバコによって肺が炎症を起こし、息がしづらくなってしまう病気です。有害物質によって肺が壊れていく、肺が溶けていってしまう肺気腫、それから気管支が炎症を起こす慢性気管支炎、この二つを包括したものがCOPDで、日本語名で慢性閉塞性肺疾患、一般にCOPD(シーオーピーディー)と呼ばれています。タバコ以外にも、大気汚染や遺伝的な要因でCOPDになることがありますが、日本人の場合は、原因の90%以上がタバコだと言われています。

COPDになると、酸素と二酸化炭素の交換ができなくなり、咳やたんが出る、といった症状が出てきます。病気が進行すると、坂道を歩くと息苦しくなるなどの症状が現れ、さらに進行すると、鼻からチューブを入れて酸素を吸入したり、外出する際に酸素ボンベを持ち歩いたりしないと生活できなくなることもあります。また、日常生活においていろいろと大変な問題が出てくるだけではなく、死に至ることもある、恐ろしい病気です。

日本にはどのくらいの数の患者さんがいるのでしょうか。

2001年に発表された順天堂大学医学部の調査研究によると、日本人の40歳以上のCOPD有病率は8.6%、患者数は530万人と推定されています。決して少ない数とは言えません。しかし一方で、厚生労働省の調査によると、病院でCOPDと診断された患者さんの数は22万人にとどまっています。つまり、COPDにも関わらず病院を受診していない人やCOPDという診断を受けていない方が500万人以上いるとも言えます。COPDであることに気がついておらず、必要な治療を受けていない方が大勢いると考えられます。

なぜ、未受診・未診断の方がそんなに多いのでしょうか。

これにはいろいろな理由があると思います。この病気自体があまり知られていないため、例えば、日常で息が切れの症状が出てきたとしても、単に加齢によって体力が落ちてきたんだな、と思ってしまう方もいるかもしれません。また、高齢になると外に出ることが少なくなって、あまり坂道を登ったり階段を上がったりしなくなり、そもそも息切れするような状況が少なくなっている、という方もいるのではないでしょうか。日常生活の中で症状に気が付くポイントが減ってしまうんですね。

それから私は、この「隠れCOPD」がコロナ禍によってさらに増えているのではないかと懸念しています。お伝えしたデータはコロナ以前のものですが、新型コロナウイルス蔓延していたころ、肺活量など呼吸器の機能を調べる検査は飛沫が飛ぶため、人間ドッグでも実施をストップしていたところがほとんどだったんです。また、自治体の健康診断でも、多くの場合、検査項目に含まれていません。肺活量の低下は、COPDを疑う大きな要因の一つです。検査自体がコロナの流行期に行われなかったことで、この数年間、さらに発見が遅れている方が増えているのでは、と心配をしています。

タバコを吸っていて息切れなどを感じることがある方は、一度医療機関を受診して、ぜひ、検査を受けていただきたいなと思います。

COPDになってしまったら、どのような治療をするのでしょうか。

まずは、なんといっても禁煙することが重要です。タバコをやめる、というのは全ての治療の大前提です。タバコを吸うと全員が必ずCOPDになるわけではありませんが、本数が多い、吸っている年数が長いほど、リスクが高まるのは間違いありません。また、現在吸っていないとしても、過去にタバコを吸っていた方は、COPDになるリスクがあります。

それから薬物療法で使用するのが、吸入のお薬です。気管支拡張薬だけのものもあれば、喘息同様、吸入の薬の中にステロイドが入っているものもあります。COPDの方の一部はぜん息の症状を併せ持つことがあるため、注意が必要です。症状が進んだ場合には酸素療法を行うこともあります。また、特にCOPDの患者さんは、風邪などによって症状が悪化し命にかかわることがあるので、インフルエンザのワクチンや肺炎球菌、さらには、RSウイルスのワクチンなどを接種し、悪化のリスクを下げることもご検討ください。

残念ながら、一度壊れてしまった肺を元に戻すことは、現在の医療ではできません。症状を改善したり、進行を遅らせることが精一杯です。とはいえ、お伝えしたように治療せずタバコを吸い続けてCOPDになってしまうと命に係わりますので、早めの検査、治療が大切です。

COPDに大きく関係するのがタバコということでしたが、
最後に、タバコについて、先生としてのお考え、皆さんへのメッセージをお願いできますか。

タバコは、本人はもちろん、周囲の人の健康も害することは良く知られています。ベランダで吸ったとしても、サッシの間から屋内に粒子が入ってくることがわかっています。タバコを吸うというのは、高いお金を払って自分や家族の「不健康」をわざわざ買っているようなものではないでしょうか。今は、健康に対する意識が高まり、タバコを吸う人も減ってきています。もしかしたら、50年後にはタバコがこの世からなくなり、COPDも過去の病気になっているかもしれないですね。

自身の健康、そして大切な家族の健康を守るためにも、是非禁煙をしていただきたいと心から願っています。